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鬼丸のサンゴ アクチノシアタス

アクチノシアタスは発見当初にはロンスダレイア属に仮置きされ、その後の研究でスティリドフィルムに移され、さらに30年ほど前に当属に落ち着いた経歴を持つ。鬼丸層下部から多産し、石炭紀前期の重要な示準化石でもある。同属のものは相馬立石層などからも報告がある。ロンスデール泡板(個体の外側の半円状構造体)が発達し、軸構造も石炭紀のサンゴらしくはっきりしている。個体の直径は平均7ミリほど。コロニーの大きさは様々だが、大きなものでは厚さ20センチ、長径80センチほどのものが露頭で観察できる。
シフォノデンドロン、ケイチョウフィルム、シリンゴポーラに次ぐ産出頻度だが、有名な鬼丸周辺や、犬頭山周辺での採集は現在では難しくなった。
初採集は貴州サンゴよりだいぶ遅く20年ほど前。鬼丸部落の手前の有名なポイントだった。木の根もとの枯葉を除いていると、平べったい手のひらほどの石灰岩に多角形の個体が10個ほど寄り添っているのを見つけた。土にまみれていたので、麓の沢で丁寧にに洗い流したら、びっくりするほど美しい風化面が現れた。
このサンゴの美しさは研磨することで一層引き立ち、同時に内部構造も観察しやすくなる。鬼丸層の模式地である高梨沢周辺のものは特に保存状態が良くて、うまく磨きあげると、薄片化したものより構造が見やすいこともある。

Actinocyathus japonicus  石炭紀前期 鬼丸層 大船渡市産

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図鑑や大船渡博物館で見て、すっかり脳裏に焼きついていたActinocyathusを採集したいと本気で考えたのは20年以上前のことです。思い立ったらすぐ実行。まずは高梨沢でミニチュアサイズの標本を採集できました。風化標本としては綺麗だったのが、磨いたら様子が一変。真っ黒で見てくれが悪く、そのままではまずいと思い、酢酸洗いして、白く模様が浮き出した状態で、それから10年間、標本棚に飾っておきました。
そして10年後、文献などを調べ、綿密に計画をたて、再びこのサンゴだけを目的に、北上に向かいました。鬼丸部落周辺では、一日高梨沢の露頭をくまなく見て歩いたものの、この種のサンゴは欠片すら見つからず、シフォノデンドロンの風化標本だけ持って車に戻りました。文献によれば、鬼丸層の分布は広く、その基底部から特徴的に産出するサンゴだと解説されていました。
二番目に訪れた場所は、北部の山間で、スギ林を抜けた先の畑のあちこちに巨大な貴州サンゴの露出した岩がゴロゴロ転がっていました。長いものでは80㎝ほどあったはずです。採集者が入った形跡が全くありません。群体サンゴも簡単に見つかりました。ところがよく見ると、見事に押しつぶされ、再結晶して、保存状態は最悪でした。貴州サンゴも同様です。何個か持ち帰りましたが、磨いても、薄片にしてもダメでした。
その日の午後、3番目のポイントに向かいましたが、疲れて山に登る気力もなく、地主のおじさんに明日山に入ることを承諾してもらい、いったん街に出て野宿しました。翌朝少し早起きして現地に向かいました。地形図では道もなく、暫くはスギ林の沢をひたすら登ることになっています。山の裾には鹿除けのネットが張りめぐらされ、錠代わりの紐をといて中に入りました。獣道を少しトラバースして小さな尾根を越えると暗い谷に出ます。この沢の上流に鬼丸層の露頭があるはずですが、沢にそれらしい転石がなく、不安なまま道なき道を沢伝いに登ってゆきました。30分ほど行ったところで沢が二股に分かれ、右の沢をさらに10分ほど登り、ようやく頭上が明るく開けてきました。杉林が切れて、新緑の間からごつごつした露頭が見えてきました。その頃になると、足元にも黒い石灰岩が目立つようになり、目を凝らすとサンゴの化石も見えます。ガレ場の先端でザックを下し、転がっている苔むした岩を返して裏を見て歩きました。ここでも一番多いのがシフォノデンドロン。他を圧倒しています。ほぼすべての岩に含まれていると言っていいくらいです。前日のものと違い、保存状態がすこぶる良くて、サンゴの外皮部分の模様や、内部骨格がはっきり分かります。
そろそろ飽きてきたころ、視線を移した先、表面の凸凹した岩に目が釘付けになりました。まるで誰かが置いたように、台座の上に風化した群体サンゴが座っているのです。ほぼ人頭大で球状の岩。その2/3の面積に、多角形模様がびっしり並んでいました。 大船渡の博物館で垂涎の思いで眺めたのと同じものが目の前にあったのです。手にとってしばらく至福の時を過ごした後、さらにガレ場を一気に上り、露頭に取り付き、その一つ一つを見て歩きました。不思議なことに貴州サンゴやユアノフィルム等の大型単体サンゴはほとんどなくて、シフォノデンドロン、シリンゴポーラ、そしてスティリドフィルム(当時の呼び名)などの巨大なコロニーが目立ちました。これらは現地性で露岩の間を歩いていると、まるでサンゴの林を巡っているような気分になります。処女地と言っていいほど採集の痕跡はなく、露頭を割らずとも、落ちているものを拾うだけで十分でした。1種類1~2個ずつ持ち帰ろうとしたら、もうそれだけで20キロ近くなりました。帰りは下り坂なのに足がフカフカの土にとられ、体力を消耗させました。予定ではもう1泊して別の産地をめぐるはずだったのが、目的を十二分果たしたのでそのまま帰途につきました。
その後も数回現地を訪れたのですが、期待を裏切られたことは一度もありません。昨年も桜の咲く頃にと、久しぶりに予定を組みましたが、その矢先に大震災が東北地方を襲いました。正直な気持ち、無理しても行きたいのです。
by coral-hunter1956 | 2012-03-15 20:10 | 鬼丸のサンゴ
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